【ウェビナーレポ】元味の素広告部長が語る、テレビCMにおけるROIの最大化

掲載日:2021年9月9日
執筆:ライター 櫻井 菜穂

2021年8月26日、独自のアテンションデータを提供するTVISION INSIGHTS株式会社(以下TVISION)がウェビナーを開催した。「元味の素広告部長に聞く!ROIを最大化する、テレビ広告のほんとうの価値」と題し、同社アドバイザーの髙橋健三郎氏が登壇。元味の素広告部長、日本アドバタイザーズ協会常任理事兼電波委員長として長年広告業界に携わってきた同氏により語られた、ROIを最大化する上で踏まえるべきテレビCMの本質とは。

【登壇者】

TVISION INSIGHTS株式会社 アドバイザー
髙橋 健三郎氏

目次

アテンション」の高さはCM認知度に直結する

  視聴者の視聴態度を把握できないことは、テレビCM制作における積年の課題であった。テレビを見ているのは誰なのか、どれくらいの時間画面を注視しているのかといった非常に重要なファクターが、視聴率だけでは判断できなかったのである。その課題解決に一石を投じたのが、TVISIONが独自に提供する「アテンションデータ」だ。人体認識技術を搭載した調査機器を家庭のテレビに設置してデータを蓄積し、「いつ誰がテレビを注視しているのか」を可視化できる。現在は人口比率に合わせ、関東1都6県1000世帯、大阪府100世帯でデータの収集を行っている(2021年9月現在)。

本ウェビナーは、「このアテンションをいかに取るかが広告の目的」というTVISIONアドバイザーの髙橋源三郎氏の提言からスタートした。同社の検証によると、アテンションの高さはCM認知度に直結することが判明している。1000GRP時点で比較した場合、アテンション含有率が高いCM群と低いCM群ではCM認知度に13%もの開きがあるというのだ。

  この差は年々開いており、2018年は7%であったのに対し2020年には13%まで拡大しているという。この原因について髙橋氏は、「クリエイティブ力が下がっている」ためだと分析。また、同氏が味の素広告部長を務めていた頃は「1000GRP時点でCM認知度40%」を一つの指標にしていたと明らかにした。

「この指標を達成するためには、クリエイティブ力と『いつ、何を、どう流すか』という媒体力を掛け合わせた『発信力』を高めることが重要だとよく言っていました」と髙橋氏は振り返る。味の素広告部にはデザイナーが所属するクリエイティブチームとCM枠の購入などを担当する広告制作チームがあり、「発信力」を高めることを各チームの共通目標としてCMの制作にあたっていたという。ROIの最大化においては、この「発信力」を高めてアテンションにつなげることが肝要なのだ。

テレビCMは右脳に訴えかけることを意識する

  さらに、髙橋氏は「クリエイティブ力」についてこう掘り下げる。人間には情緒を司る右脳と情報を司る左脳があり、フィクションである広告は情緒的な部分に訴えなくてはいけない。つまり、「広告のターゲットは右脳」というのが同氏の持論であるという。その好例として挙げられたのが、味の素「Cook Do(クックドゥ)回鍋肉」のCMだ。

2011年に放映されたこのCMは、売上高前年比200~300%、広島地区においては900%という圧倒的な結果を生み出した。当時味の素広告部長を務めていた髙橋氏は、「唾液が出る広告」を意識してこのCMを打ち出したという。「要は食べる人が食べたくなる、作る人は買わなくてはいけなくなる、こういった生活者のポイントをくすぐるような広告を打った」ことが、視聴者の右脳を揺さぶったのだ。 ただし、右脳をターゲットにするのはあくまでテレビCMの場合だという。フィクションであるテレビに対し、情報発信で認知度を高めるWebにおいては左脳がターゲットになる。どう伝えるかは媒体によって異なるが、本質的には右脳と左脳の両方から情報が入ることが最大の効果につながると髙橋氏は語る。「論理的な裏付けと情緒的な満足感が両方得られれば、視聴者にとって企業が発信した内容はストロンゲストになる」。だからこそ、自社の商品は右脳と左脳にどのように訴えればいいかを見極めて戦略を立ててほしいという。

広告という「手段」の効果を最大化するには?

  では、テレビCMにおいてROIを最大化するにはどうすればいいのか。この本質的な疑問に対して髙橋氏がまず提言したのは、「広告は目的ではなく手段である」ということだ。広告を流すためではなく、広告という手段で最大の効果を得るにはどうすればいいのか。そういったスタンスで仕事をすることが基本中の基本だという。

その上で意識すべきは、広告を誰に対して、いつ、どこで、どのように流すかだ。とはいえ、スポットのタイムマネージメントはなかなか出稿側の思い通りにはならない。味の素も例外ではなかったという。しかし、「CookDo回鍋肉」のような商品のCMは視聴者が空腹の時間帯に流してこそ効果を発揮する。そこで髙橋氏は、テレビ局や広告代理店に訴えかけたのだ。「朝帯や深夜帯にも流れるのは仕方ないが、11~12時、16~19時ぐらいを中心にスポットを集めてほしいと懇願したのを覚えています」と当時を振り返る。

  スポットの効果は、消費者の視聴態度にも左右される。CMを放映しても、ターゲットにきちんと届かなければ最大の効果は得られない。アテンションデータが存在しなかった時代、視聴態度の実態が把握できないことは企業にとって悩ましい問題だった。当時味の素には30年以上かけて蓄積した消費者調査データがあり、髙橋氏はこれをもとに分析を行っていたという。そのデータと併せて参考にしていたのが、電通総研の奥律哉氏が提唱した「メディア世代論」だ。

メディア世代論とは、どの時代に生まれ、どういったメディアやツールに触れて育ったかによってメディアや情報系システムとのタッチポイントは異なるという理論である。自社のターゲットとなる世代がどこから情報を取得しているのかを見極めれば、的確に広告を打つことができる。髙橋氏は膨大なデータとメディア世代論をもとに消費者行動を把握し、広告展開の指標にしていたのだ。

「今も基本は変わらないと思いますが、新しいプラットフォームも出てきていますし、アテンションデータなども活用して分析をしやすい時代になりました。広告で一番重要なのはターゲットを設定し、そこに向かって何を訴えたいか、伝えたいかということです。それに基づいて5W1Hをしっかり構築すれば、自ずといい結果につながっていくでしょう」と、広告制作に携わる参加者を激励した。

アテンションデータを活かし、若年層にリーチする

  ウェビナーの最後に話題となったのは、テレビCM業界の今後の展望だ。髙橋氏は「あらゆる企業がDXを推進している以上、広告効果を数字として見える化することが一つの重要なファクターになると思います」と未来を見据える。数字を示せるという点においても、TVISIONのアテンションデータには意義があるという。

味の素時代、高橋氏はさまざまな手段を駆使して広告の効果を見える化していた。お客様センターに集まった消費者の声やアンケート調査の結果を蓄積し、膨大な消費者調査データの一部にしていたのだ。非常に恵まれた環境にあったと振り返りつつ、「みなさんが置かれている立場から発想すれば、手段はきっと見つかるはずです。いろいろな方法で見える化に取り組んでほしい」と語る。

  また、テレビ業界の課題として若年層のリーチ不足にも話は及んだ。髙橋氏は奥律哉氏の意見であると前置きした上で、「テレビが若年層に向けた積年の努力を怠ってきた累積値が現状に至っている」という。テレビ局が視聴者との融和性を高めて広告環境を改善しなければ、テレビCMの効果の最大化は難しいと憂慮する。

広告環境の改善は、髙橋氏が日本アドバタイザーズ協会常任理事兼電波委員長を務めていた頃からの悲願でもある。2011年3月、東日本大震災によってすべてのテレビCMがAC広告に差し替えられられたのは同氏の着任からわずか1か月後のことだった。イレギュラーな状況で、同氏は広告代理店協会や民放連に対して広告環境の改善を訴え続けた。その背景にあったのは、「どのクライアントにとってもメリットがあるから」という思いだ。その甲斐あって、在任期間中に徐々に改善に向かっていった実感はあるという。

「ただ、若年層との関係においては手をつけられていません。そういった方々を惹きつけるにはどうしたらいいか、テレビ局が各所から情報を貰いながら一緒にやっていく必要があると思います」と髙橋氏は語る。アテンションデータなどの客観的事実を踏まえて戦略を再構築し、いいクリエイターと力を合わせて良質なコンテンツを作っていく。それが、今後のテレビ業界に期待することだという。「若年層のみなさんにとっても、テレビのモニターは価値の高いツールであることがわかっています。その期待値に応えるものを出すことが重要」として、ウェビナーを締めくくった。

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