【ウェビナーレポ】電通メディアイノベーションラボ統括責任者に学ぶ、「メディア世代論」とテレビ視聴の中長期トレンド

2021年10月21日、TVISION INSIGHTS(以下TVISION)が開催したウェビナー「メディア世代論から見えてくるテレビ視聴の中長期トレンドとコロナ禍のトピックス」に電通メディアイノベーションラボ統括責任者、電通総研フェローの奥律哉氏が登壇した。奥氏が提唱するメディア世代論に基づき、テレビ視聴の中長期トレンドを解説。デジタルメディアの台頭、コロナの影響などに言及しつつ、今めざすべきメディア像を探る。

【登壇者】
電通イノベーションラボ統括責任者、電通総研フェロー
奥 律哉氏

目次

F1、M1の中核を担うのはマルチデバイス世代

 思春期に親しんだメディアは、その人にとっての「自分のメディア」となる。年齢を重ねても、時代が移り変わっても、標準に据えたメディアは変わらない。たとえば、カラーテレビが一般家庭に普及し始めた時期に小中学生だった世代はテレビに親しんで育ってきた。時代の変遷とともにメディアが多様化しても、彼らにとっての「自分のメディア」は今なおテレビだ。そして、世代ごとにこのメディアは異なってくる。
 各世代の「自分のメディア」は、年齢とともに持ち上がっていく。そこをベースに、時代ごとのトピックスやイノベーションが重なっていく。そのように考えることで、各世代がメディアをどう捉えているのかを紐解きやすくなる。これが、電通メディアイノベーションラボ統括責任者の奥律哉氏が提唱する「メディア世代論」の概要だ。

 本ウェビナーは、このメディア世代論の解説からスタートした。1946年前後に生まれた現在75歳前後の世代を「46世代」とし、96世代までの時代背景を提示。主流となっていたメディアサービスが、時代とともに移り変わっていることがわかる。
 「大事なのは76世代がPCリテラシーのトップ層であり、それ以降の世代はスマートフォンにシフトしていくということです」。さらに奥氏は、マルチデバイス世代である96世代に着目。「動画漬け」で育ってきた世代が25歳前後になり、今やF1、M1の中核を担っていると強調した。では、テレビからスマートフォンへのシフトはなぜ起こったのか。

携帯電話がテレビ以上に普及する時代へ

 続いて奥氏が示したのが、内閣府の消費動向調査のデータだ。カラーテレビ保有台数が2005年は1世帯あたり約2.23台であったのに対し、2020年は約1.86台まで落ち込んでいる。たとえば夫婦で異なるコンテンツを視聴したい場合、片方はテレビではなくスマートフォンやタブレットを利用することになる。
 さらに2021年の調査では、1世帯あたり約1.81台に減少。一方、携帯電話全体の普及率は1世帯あたり1.99台に達している。つまり、携帯電話はもはや「テレビよりも普及が進んだ端末」なのだ。

 また、テレビにフォーカスすると新しい事実が見えてくる。特に世帯主29歳以下の世帯で、カラーテレビ普及率が年々減少しているというのだ。2005年時点の97.1%に対して2021年時点では84.4%と、下げ幅は大きい。奥氏はこれらのデータを総括し、「若者のテレビデバイス離れが加速する中、コロナ禍を迎えた」と語る。

ティーンエイジャーを獲得していた昭和の編成

 若者の中でも特にティーンエイジャーは、「10年後にF1とM1になる、つまり社会階層として非常に大事なターゲット」だという。彼らが「テレビデバイス離れ」を起こしている大きな原因は、編成にあるのではないかというのが奥氏の見解だ。

 ここで紹介されたのが、1970年の読売新聞ラテ面だ。現在の編成は、朝5時から夜19時まで多くが情報バラエティで構成されている。一方、1970年当時は19時台に至るまで多くのアニメが組み込まれているというのだ。「みなさんが小学生、中学生の頃は、学校から帰ったらとりあえずテレビを見るというところから始まったと思います。このゾーンに、子どもたちの受け皿があったのです」。
 現在の編成は「何十回、何百回と工夫を繰り返して最適化した結果」だが、それによって大きなダイナミズムを見失っているのではないかと奥氏は懸念を示す。つまり、「小中学生の入口となるゾーンにアニメがないのは、そのあとのゴールデンプライムに引っ張っていく力を失うということ」だというのだ。参加者には、この分析をティーンエイジャーに訴求する上でのヒントにしてほしいという。
 続いて奥氏が紹介したのが、2021年にTVISIONが実施したYouTube視聴履歴調査だ。

 この調査は410アカウントのYouTube視聴履歴を取得して実施されたもので、本ウェビナーではそのうちの1アカウントを抜粋。ある世帯の母親のアカウントデータを調査したところ、TVISION独自の個人注視データにより誰が、いつ、どんなコンテンツをテレビで視聴しているのかが明らかになっている。
 奥氏は、このデータからわかることは「夕方から夕食前の時間帯では、母親と子供が思い思いのコンテンツをYouTubeで観ているものの、夕食時には家族そろって地上波視聴していること」だという。日中は母親がYouTubeのアニメを視聴しており、夜になると子どもがゲーム実況動画を視聴。1アカウントの例ではあるものの「子どもがゲーム実況動画を視聴するのは、編成で見たいものが提供されていない証」として、改めてティーンエイジャーを惹きつける編成の重要性を示唆した。

n対nの時代におけるマスメディアのあり方とは

 ウェビナー終盤に奥氏が紹介したのが、自らが統括責任者を務める電通イノベーションラボの独自調査結果だ。メディアの利用頻度を年代別にまとめると、60代ではテレビ・ラジオといった放送メディアのシェアが圧倒的に高い。ところが50代になるとネット・デジタルメディアがトップになり、ティーンエイジャーではSNS・ブログのシェアが高くなっている。この現状を、「昔はマスメディアに対して生活者は読む人、見る人という立ち位置で、1対nの構造になっていました。ところが今は、誰もがSNSも含めて発信者になれるn対nの時代です。だからこそ、若者はSNS・ブログにこれだけ親しんでいます」と奥氏は分析する。
 ネット・デジタルメディアに加えてSNS・ブログが台頭する時代に、マスメディアはどうあるべきなのか。参加者の多くが抱いているであろう疑問に、奥氏は「より信頼される情報を伝えていくこと」と道筋を示す。
 「僕は、若い人ほど報道に対するリテラシーが高い気がします。ネットには清濁あるとよく言われますが、若い人はそれを多様性として理解し、本当に大事なことを見分ける能力が備わっているのではないでしょうか」
 もはや、報道のスピードはネットに分がある。それならば、マスメディアは「間違いない報道」をしていくべきではないか。一時代前のジャーナリズムにとらわれず、マスメディアがあるべき姿を模索すべきタイミングではないかと奥氏は語る。

 続けて奥氏が示したのが、電通イノベーションラボによるメディアの「頼りになっている度合い」の調査結果だ。まず2018年から見ると、年配者はいわゆるマスメディアを頼りにしており、若者はSNSなどから情報を得ていることがわかる。その分水嶺が40代で、それ以上の世代はマスメディア寄りのリテラシーを、それより下の世代はデジタル系をファーストに置いているという。
 注目すべきは、2020年に同じ調査を実施すると60代のプラススコアがやや減少していることだ。分水嶺も40代と50代の中間にあり、この2年間だけでも時代感がデジタル系へシフトしていることが見てとれる。さらに5年後、10年後ともなれば現在のミドルジュニア世代が社会の中核に入り、大きく様相が変わるだろうと奥氏は推測する。

「斜め読み」がデータの見方を大きく変える

 本ウェビナーの締めくくりに奥氏が語ったのが、「斜め読み」の重要性だ。「特にマーケティングをお仕事にされている方は、デモグラでF1といえば1990年のF1、2000年のF1と、横に見ていく傾向にあります。しかし、1990年のティーンキッズは2005年には一人残らずF1に昇格し、2020年にはさらにF2に昇格します」。
 時系列を斜めに見ていくと、テレビとともに育った世代が60代になり、今もテレビに親しんでいることがわかる。一方、中高生の頃からiPhoneを持っているような若者にとってはスマートフォンが「自分のメディア」になる。さらに5Gやより新しいサービスが現れれば、彼らのメディアとの接し方は当然変わってくるはずだという。
 「特に今回のコロナは2011年の東日本大震災と同じく、全員に同時期に影響を与える劇的な因子でした。そういう出来事があったときの年代によって、メディアリテラシーや基本的な生活行動の基準が変わっていきます」
 その分析に役立つのが、データの「斜め読み」だ。奥氏いわく、「斜めの理解があれば、時系列データは宝の山」だという。奥氏のメディア世代論を理解することで、既知のデータからも新たな発見を得られるかもしれない。

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